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正直なところ、これほどまでの距離をひとりで歩くのは怖かった。いつもは走っていって帰れるほどの距離の使いや買い物しかしたことがなかった。
それは何よりも、人に会わないためである。
今日の道はほとんど人通りがないから安心してお行きと女将は言ってくれたが、それでも怖いものは怖い。
足早に歩いてはいたが、少しずつ日は暮れてきた。周りはもう家も店もなく、ただ道が続いているだけだ。
誰ともすれ違わない。
ただ何もない、ずっと続く道を、一人で歩き続けるのはしんどいものだ。下働きとはいえ、きっと普通の女子ならこんなことはしないのだろうと思う。
私の年齢であれば、もうとっくに妻になり母になっている。
妹が、羨ましかった。
私は、一度も会ったことがない妹。美しく、優しい娘だと主人から聞いた。
私と同じように生まれてこなかったことは、きっと両親にとっては最高の喜びだっただろう。特に、私を世に産み落としてしまった母は。
まっすぐに前を向いた。どこまでも、どこまでも道は続いていた。
私は、これからもずっとひとりだ。死ぬまでひとり、歩き続けていかなくてはならない。
他の人には、支えがいるのに。
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