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   逃げられるはずがないことは、考えればわかるはずだった。女の足と男の足。刀。町から幾分離れた道。全てが絶望的だったのに、むしろつい今まで死ぬことに何の抵抗も感じていなかったのに、自分からより苦しい場所へ駆け込んでいるみたいだった。  すぐに大きな足音は後ろまで近付いてきて、私は身を捩りながらめちゃくちゃに叫んでいた。ただひたすらに元の道へ、誰かに突き刺すような声を上げて。私のものではないような、不気味な声だった。  刀を収めてしまったらしい浪人は、こちらも必死で力ずくだった。肩や腹を殴られて、その度に体は倒れそうになるのに、それでも私の足は逃げ続けた。  死にたくない。  ぐっと頭が後ろに引かれ、一瞬息ができなくなった。耳元で、鈍い嫌な音がする。喉が勝手に唸り声をあげた。  髪を、強い力で絡め取られていた。 「……手間かけさせるんじゃねえ」 「嫌、だ」 「黙りやがれ」 「嫌だあああぁっ!!」  叫ぶとさらに強く髪を引き上げられる。首を絞められたみたいに、息ができない。  目を開けているはずなのに、薄ぼんやりした靄がかかったみたいに見えた。一瞬、気を失ったのかもしれない。  ただ、首に誰かの手が乱暴に触れてきたことだけはわかった。  
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