12/12
前へ
/75ページ
次へ
   気を失いかけながら、何か言葉が流れているのは聞こえていた。  それが自分の叫びなのか、浪人の罵りなのか、それすらわからない、気持ちの悪い、はっきりしない声だった。  不思議なほどに、ゆっくりと時が進んでいた。髪を引かれている痛みや感触はそのままなのに、それには鋭さが欠けていた。  もう諦めたからだったのだろう。自分の生を今度こそ、体も諦めてしまったから、少しでも今を長く思わせてくれている、そんなよくわからないことまで考えていた。  けれど、いつまで待っても私は何も感じなかった。時が止まったみたいに、私を掴む手も、髪も、視界も変わらなかった。息が詰まって、それでも唇の中に空気は入ってくれなくて、胸が反らされたまま浅い呼吸を繰り返す。  どうしてしまったのか、わからなかった。首をへし折られることもなく、背中を刃で貫かれることもなかった。  耳元で、もう一度小さく音がした。  ぴりっとした小さな痛みが走って、ああ、また髪が抜けた、と他人事のように思ったその時に、急に軽くなった体が前にどんどん傾いでいった。  大きく息を吸い込んで、何かにバタリと倒れたところで、感覚はすべて、なくなってしまっていた。  
/75ページ

最初のコメントを投稿しよう!

169人が本棚に入れています
本棚に追加