169人が本棚に入れています
本棚に追加
自分の体がゆらゆら揺れているのがわかった。
体はだるくて、自分で歩いているわけではないのは理解できるのだけれど、どうしてこうなっているのかがわからない。地に着いていない足と支えられた温かさが、誰かに運ばれていることを伝えた。
気を失ってからどれくらい経っているのだろう。
とにかく私は生きていた。
「……気付きましたか」
ふと上からかけられた声に、小さく身動ぎをした。
気づいていない振りをし続けるわけにもいかないような気がして、そっと薄目を開けて顔を上げた。
そこはどこか、屋敷の廊下のように見えた。年月を経て色を濃く変えた床板が、長く続いていた。大きな屋敷らしかった。
「私は……」
「ああ、よろしいですよ、無理に話さなくても」
その声は誰のものかもわからないのに、深く甘くて安心した。私を運ぶこの人間がどこの誰かもわからないのに、私はそっと強ばっていた体の力を抜いた。
誰なのか、ここはどこなのか、聞きたかったけれど私は途方もなく疲れていて、叫び続けていた喉は乾いて張り付いているようで、とにかく全てが億劫だった。
感覚が全部、麻痺してしまっているようだった。
最初のコメントを投稿しよう!