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彼女は、全く遊女屋には似つかわしくない人だった。美しい色の着物を纏っているわけでもなく、体が動く度に揺れるかんざしを着けているわけでもなく、優しい色の質素な着物を着た、その辺りをただ歩いている町娘だった。
きっと気絶している間私の世話をしてくれたのも彼女なのだろうけれど、遊女屋に、あまり金も持っていなさそうな女が一人というのはたいそうな違和感があった。
それがここの人間だというなら尚更だった。
無意識にその思いは顔に出ていたのかもしれない。未だにきちんと相手を見ることもしていないせいもあっただろう。
「私の着物を、返していただけますか」
「え?」
「どこにも、見当たらないのです。私はすぐに、戻らなければ」
私がいなければ、あの店は今どうやって回しているのだろう。正直、あの主人と女将に私の仕事を代わるのは全く無理だと思っていた。
助けてもらったことに、感謝をしていないわけではない。
だが、私は誰かに知られることを望んではいない。
こうやって誰かに助けてもらったことさえ、この目を思うと意味もなく後悔してしまう。
根付いた場所へ、帰りたかった。
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