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「じゃ、水魔法の基礎に入りましょうか。しばらく暗記ばっかりだけど」
そう言うと先生は黒板にデカデカと半月を描いた。
「これが水の魔法って意味。Riが使いますって意味。合わせて水の魔法を使いますってなるの。次に――――」
先生の言う事を淡々とノートに書いていく。脇には、授業でまだ一度も開いた事のない、青い表紙に黄色い半月が印刷された本。
「最後に斜め線を描いて、これで魔法を終わりますって意味。それじゃあ時間もある事だし、実技やってみますかね」
失敗して教室ビタビタにするわけにもいかないから外に出ましょうか、と言って教室を後にする先生。後ろを私語も無くゾロゾロとついていく。
入学三日目にして実技、早過ぎる気がしないでもない。
外といっても馬鹿デカい運動場ではなく、校舎の外だ。黒いコンクリートの道と端に申し訳程度の芝生が広がっている。
「ではみなさん、出席番号でペアになって互いに相手の魔法が成功するか見て下さいね。では始めて下さい」
出席番号だと……、じゃあ俺の相方は
「よろしく」
起伏の無い静かな声が、後ろから飛んできた。
「あはは……よろしく」
やらしくとは言えなかった。コイツの前だとふざけられない。俺はこの少女に妙なプレッシャーを感じるのだ。
ま、適性値の件でビビッてるだけだがな。
「じゃ、俺からやっていいかな?」
「かまわない」
じゃ始めるぞ、と言いながら、俺は先生の言葉を思い出していた。
「Ri」
半月を描きながら言う。これで水魔法を使いますの意味。
「a」
砂時計を斜めにしたような図形を描く。これで空気中の水分を凝縮しろ、の意味。ここで摩訶不思議な法則が働いて、一滴の水をプール一杯分にするような体積の増加が起こる。
言葉は指定した位置、大きさ、形状で出現しろ、という意味。
「ne」
これで出現後、こちらの意思に合わせて動くようになる。斜め線を引くと、先程描いた図形をなぞるように青白い光が生まれ、それを囲むように二重の円が生まれ、間に文字らしき物が生まれ、最後に中空に浮かぶ小さな水の球が生まれる。
「よしっ!」
俺は思わず声を上げていた。空気を凝縮するってイメージがよくわからなかったから指定した大きさより小さいが、とにかく、成功だ。
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