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馬鹿デカい学園の中を散々走り回ってようやく寮の前に着いたのであったぁ!
道に迷って二時間近くウロウロしていた俺は、鍵をあけ、倒れ込むようしてドアを開き、靴を脱ぎ捨て、部屋の隅にあるベッドを見つけてそこにダイブした。
走り去っていった奴も、ゆっくりクールに歩いていった奴も、まだ迷っているに違いない。
しばらくそうしていたが、明日の時間割をするために教科書の確認に入った。
数ⅠAやら英Ⅰやらといった普通の教科書に混じって、水魔法の基礎という本がある事が、魔法学園に来たって事を実感させる。
まあいいや、初日から予習なんていらんだろ。そう思い、教科書、ノートを鞄にぶち込んで早くも惰眠を貪る事にしようとした。
その途端に、ガンガンと金属製のドアを乱暴に叩く音が。
苛立ちながらもドアを開けると、そこには走り去っていった黒い短髪がいた。
「何か用かい」
「挨拶回り行った?」
学生寮に住む者は、先輩に挨拶をしておかないと後で酷い目に遭うらしい。挨拶回り? と俺が聞いたところ、ソイツが教えてくれた。
L組寮男子新入生は二十人だから、二十回も扉を叩かれる先輩方も辛いんじゃないだろうか。そう思いながら八階建て、一階あたり十部屋の扉を叩く旅が始まる。
たまに部屋に招かれる事もあったが、それとなく断る事に成功し、空き部屋が結構ある事も相俟って一時間ぐらいで終われた。
時刻はまだ六時前。とはいえ、正直もうクタクタである。
俺は黒い短髪男子に別れを告げ、部屋に備え付けられているユニットバスに入って、着替えてベッドに再びダイブ。
体勢を仰向けに直し、シミ一つない白い天井を見上げる。そして重大なミスに気付いた。
電気消してねー。
俺は起き上がり、部屋の中央にある紐を握って辺りを見回す。
ステンレス製骨組みの上に分厚いマットを置いたベッド、大きめのいわゆる勉強机、乱雑に置かれた教科書と鞄。フローリングの床に眩しい程白い壁紙。
これからの学生生活を過ごす部屋。
うん、冷蔵庫欲しい。
電気を消し、窓から入ってくるオレンジ色の光を頼りに再びベッドにダイブした。
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