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厨房ではなく2階の購買で、手軽に摘めるお菓子と飲み物を買って来て、2人は再び向かい合って座った。
美晴の意向で荷物ごと人気の少ない窓際に移動して、『ヒソヒソ話』態勢を決め込む。
美晴はパックの果汁80パーセントリンゴジュースにストローを突き刺し、チョコリングの袋を綺麗に開いた。
自分と里子からの距離がほぼ均等の位置にそれを置くと、ニンマリ笑って顔を上げた。
「それで?」
「…それでって、何が?」
里子は赤面を意識しながらチョコ菓子に手を伸ばした。
「だから、どうだったのよ。黒川くんの味は」
「あああ味っ?!?」
なによそれ卑猥すぎる!
チョコ菓子を飛ばす勢いで叫び、僅かな学生の視線を一身に浴びる。
わざわざ席を移動した意味がない里子の動揺ぶりに、美晴が肩をすくめて首を振った。
里子は空咳して姿勢を正した。
「…味とかそんな余裕はこれっぽっちもなかった…」
「あはは、まあ当たり前よね。初体験なうえ、相手は死ぬほど好きな彼氏なんだし? あんたに味わえって方が無理な話よ」
はい全くその通りでございます。
里子はテーブルに額を落とす。
ゴツンと鈍い音が鳴った。
「でもその様子だと安心してよさそうね。あんたスッゴい幸せな顔してるわよ。黒川くんも皮肉に苦しむ男よね。自分が里子を綺麗にして、その度に慌てる羽目になるんだから」
「……綺麗とか言ってくれるのは美晴と更羅ちゃんくらいよ」
更羅ちゃんは黒川くんの弟の彼女ね。
付け加えて笑い、里子は素直にお礼を言った。
美晴はそれには応えず、ジュースを飲み干してパックを鳴らす。
トンとテーブルに置いて、身を乗り出して頬杖をついた。
「優しかった?」
「……それはもう」
「激しかった?」
「そそそんなの分かんない!初めてだったもん。どれが激しいのか計れないし」
「あ、そっか」
美晴は納得して斜め上を見た。
「ならさ、どんな気持ちになったか教えて?黒川くんの事どう思った?ますます好きになった?」
「…うん」
それはそれは言葉で言い尽くせないほどに。
里子は真顔で頷いた。
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