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潮の香り、湿った風、霞む水平線、異国情緒漂う街並み。
ドブ板通りをゆるゆると歩く。
セーラー服の黒人さんの、盛り上がった筋肉のたくましさに。
腰をくねらせて闊歩する、金髪のお姉さんのはちきれそうな胸元に。
すれ違うたび、俺は釘付けになる。
――横須賀。
かつて、母方の実家がこの街にあった。
夏休みと冬休み、デイバッグに着替えを詰めて、ひとりで泊まりに来たっけな。
花火大会も、米軍基地の祭りも、じいちゃんに連れてきてもらった。
今じゃ悪知恵ついて、色気づいて、可愛げなんてすっかりなくしてしまった。
プールバーでホットドッグをくわえながら、ビリヤードに興じ、女をひっかけちゃ、三笠公園に連れ込んで。
半年前から、フラッとやってきては、リーマンみたいに同じことを繰り返す。
あまり乗り心地がいいとは言えない横須賀線の電車内で、今日はどんな収穫があるか、頬杖ついて考える時間が、俺は何より好きだ。
プラットホームに降り立つと、戦場に赴く兵士みたいに士気があがる。
寄せては返す波の音、様々な人種が行き交う通り、都会の喧騒を忘れさせてくれる、まるで異空間。
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