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あれから半年。
通学が苦にならない近場の大学に入学し、誰にも小言を言われることなく、だらけた学生生活を送っている。
隣に座った女も、同じくらいだろうか。
遠慮なく受け取ったフラペチーノを渇いた喉に送りこみながら、横目でそっと盗み見た。
「あたし、ヨーコ」
マジか?と聞いたら、うふふと笑う。
あなたは?と聞かれて、ジョー、とやや素っ気なく答えたら、
「ワォ」
と、大きな目を更に丸くした。
「あんたの名前、ホントは『ジョン』てつけたかったけど、犬みたいだからさ…やめたの」
いたずらっぽく笑った、母の顔が浮かぶ。
破天荒な母親の、珍しく常識的な判断に、心から感謝したっけな。
「なんか、運命感じちゃうな」
「なんの運命だよ」
それには応えず、弾むように体を揺らし、
「あたし、ジョンと誕生日一緒なの」
得意げに唇をつき出した。
「あんたの手柄じゃねーだろーよ…」
「このTシャツ、知ってるでしょ?」
俺のつぶやきは無視して、左胸を指さし、澄んだ瞳で見上げてくる。
「あぁ」
どもりそうになりながらも、つっけんどんに応えると、くるりと背を向けた。
「素敵だよね。『Yes』って。はしごを登って虫めがねで天井を見たら、『Yes』だよ?もし『No』だったら、絶望的よね?」
オノ・ヨーコの個展にふらりと訪れたジョンが、ヨーコと初めて出会った時のエピソード。
耳タコってくらい聞かされた。
うっとりと、抜けるような青空を見やる横顔は、彫刻みたいに美しい。
…と思うと、どことなく憂いを含んでいて、風が吹いたら壊れてしまいそうな儚さを帯びている。
俺は暑さも忘れ、その横顔に見入ってしまった。
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