294人が本棚に入れています
本棚に追加
/105ページ
経と尋はココアを飲んでいた。
尋が、おもむろに呟く。
「経は『お嬢様』の『番犬』なんだね」
「少し前まではな」
「少し前までは?」
その経の返答をきき、怪訝な顔をして聞き返す尋。
「ああ。『番犬』は、もう止めたよ」
「………」
「おまえのせいじゃないよ」
下を向いて俯く尋に、経は呟いた。
「俺はむしろ、おまえに感謝してるんだ」
ハハハ、なんて笑う。
「俺はさ、お嬢達に縛り付けられた番犬。元は狂犬だったのにな」
経に狂犬の時の記憶は実はあまりない。
それ以前の一人だった記憶、族を組んでいたところまでは覚えている。
だが、番犬になるまでの記憶がない。
血に塗れた捨て犬のような経に、当たり前のようにお嬢様二人は笑顔を向けた。
彼女らは彼を家に住まわせ、番犬になることを命じたのだ。
「ヒロの笑顔をみてたら、思い出せる気がするんだよ。俺の失われた記憶。そして、感情を―――」
「ふーん」
「………えらくあっさりだな」
真剣に話す経に、さっきまでの態度はどこへやら。
ヒロはあっさりしていた。
最初のコメントを投稿しよう!