294人が本棚に入れています
本棚に追加
/105ページ
「はい?」
尋は聞き返した。
月明かりと街灯が照らす、公園のベンチで思いもよらない言葉をきいたからだ。
「おまえが、好きだ」
経は、つぶやく。
前を向いて、しっかりと。
「…………あたしが、好き?」
「おう。おまえが好きだ」
尋は顔が真っ赤になるのを感じた。
事実、赤くなっている。
今まで生きてきて、こんな言葉を言われた事は、ない。
(ど、どうすればいいわけ?)
まだ信じられないのに。
そりゃ嬉しい。
だけど、まだ、
「嬉しいけど、待ってほしい」
尋は経をみて、精一杯の勇気で言う。
「あたしはまだ、自分も好きになれない。だから、待ってほしいの」
経は、少しも考える間もなく、あっさりと頷いた。
しかも、笑顔で。
「うん。待つよ、俺」
はぁーっと、息を吐き出す。
「あー、緊張したぁー。しかし、断られるかと思ったぞー」
でもよかったぁー、と経は笑う。
街灯の明かりで、少し眩しい。
(経は、真っ直ぐなんだなぁ)
狂犬と言うにはあまりに真っ直ぐだ。
最初のコメントを投稿しよう!