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「いただきます」
経は一つ、つまんで食べる。
正直腹は減っていない。
だが、食べなければ失礼だ。
「美味しいです」
「ホント? よかったー」
頑張って焼いたんだよ、とひみ。
にこりと笑って、台所へと帰っていく。
経は少し迷ったが、自室へと戻る事にして廊下を歩く。
経はここのお嬢様二人に仕える騎士ともよぶべき存在だった。
姉の未来と妹の氷湊。
二人とは元々中学生からの知り合いだ。
だが、いつからかそれは主従関係になり果てていた。
(別に、仕えるのはかまわない)
元は狂犬と呼ばれ、忌み嫌われ。
今は番犬と畏れられる。
―――いいんだ、これで。
経はベッドに転がる。
従う事は嫌いじゃない。
むしろ、上は嫌いだ。
(……でも、)
疲れた、な。
だが狂犬なら鎖もひきちぎるが、番犬は違うのだ。
番犬に鎖をひきちぎる事は出来ない。
そして今もまた、鎖に繋がれたまま。
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