その瞳は何を映す

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「諸君らも覚えているだろう、十八年前のあの忌まわしく憎しみに溢れた災厄を」 男は無機質な瞳をぐるりと動かして部屋の中にいる人間を見渡すと、言った。 「あの災厄によって我が国、日本の陸地面積の四分の三が海の藻屑と化したのは言うまでもない。そして、人工大地である海上都市を建設した際の経済的負担は周知の事実であろう」 壮年の男はそう続けて、立ち上がる。同時に彼の背後にスクリーンが降りてきた。 映写機も床からせり上がってくる。 「……人類は歴史において地球上の資源を、朝三暮四の猿達のように目先の利益を追求するあまり、盲目に無知に浪費してきた。その結果がこれである」 男が嘲笑うかのように口角を微妙に緩めながら、しかし厳格な威圧感を保ちながら語ると、スクリーンに淡い光が灯った。 そこに映ったのは、やや歪な形の世界地図。歪なのは海水の浸水によるものだ。 一拍置いて、更に画像が追加される。 「これは各国の資源埋蔵量を示したグラフだ。アメリカ、ロシア、オセアニア、中華連……そして我が国、日本。これが示す通り、過去や現代の栄光など、未来にとっては只の黒歴史にしか過ぎぬのだ」 男の言葉通り。 そのグラフは最低の数値を示していた。
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