その瞳は何を映す

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小宮が座ると同時に一番奥に座る壮年の男が――今まで幾つの命令を発してきたのだろう――軍人らしい口調で言葉を発した。 「では、諸君。これより最も無駄で、最も必要な会議を始めるとしよう」 皮肉めいたその台詞に笑う者は居ないが、その粘り付く血のような真意は皆に届いており、背筋を無意識の内に伸ばさせる。 「それでは、まず配布する資料を読んでもらおう。勿論のことだが機密書類故、外部への漏洩は許可出来ない」 男がやや口元を吊り上げ老獪な口調で続けて言うと、デスクがぽぽっと光を灯す。 すると、デスクを厳格に囲う男達の手元に――まるで宇宙の誕生の再現をするように――紙の束が現れた。 それは“軽物体瞬間移動法”と簡略化されて呼ばれる技術だ。本名は非常に長く堅苦しい上に、英語なので割愛させて頂く。 簡単に言えば、送受信用の二つの特殊な装置を移動媒体として、ある基準質量以下の物体を平均コンマ一秒以下で移動させることが出来る技術である。 現代ではポピュラーな技術となっており、機密書類などの移送や宅配物の簡易運搬などが可能となっていた。 男達は勿論、突然現れた文書に何の驚きを見せず、それを手に取る。 そして異常ほど速い手付きで文書を捲り、内容の全てを記憶すると机に置いた。 「詳細は後日転送する。さて……、これが、これより我々が世界に引導を渡すための……第三次世界大戦の計画だ」 壮年の男が元々険しい眉間の刻まれた皺をより険しくして、まるで死刑宣告でもするように重々しく言った。
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