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その夜の話。
自室で横になりながら、数時間前の悔しさに涙で枕をぬらす勢いのセリム。
薄暗い部屋の中で色々と考えているらしく、時折ため息を漏らしていた。
しかし、その考えというのも年相応のものではなく。
(帝国の医師になって、さりげなくあいつに毒薬を投与……いや、生半可な覚悟で医療に携わるのはいけないか)
そんな殺し方を考えつつ、"あいつ"――自分の父の顔を思い出していた。
国を改革するのは厳しくても、暗殺は可能と考えている。
その通りで、セリムがアイリスに命令すればあっさりと暗殺は終わるだろう。
しかし、セリムは躊躇っていた。
もしも暗殺すれば、自分も"あいつ"と同じになってしまう。それはまだいい。
自分がいなくなった後のアイリスはどうするんだろうか、あいつがいなくなった後の国はどうなってしまうのか。
それがセリムを踏みとどまらせていた。
――そう四苦八苦していた時。
「セリム様ー、まだ起きてますかー?」
洗い物を終えたのだろうか。
コンコンと扉が小突かれる音がして、セリムはゆっくりとベッドを起き上がった。
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