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「助かりましたよ。なにせ王都まで遠いですからね。たくさん買い込めました」
「どういたしまて……。役に立てて嬉しいヨ」
どう考えても抑揚を欠いた棒読みに、アイリスは小首を傾げていた。
どうしたんですか、と。
「今日は美味しい料理を期待しようかな……」
「ええ、セリム様がやたら強調していたナスを買いましたからね」
「え」
セリムは絶望の中に突き落とされる。
彼がナスをどのくらい嫌いかといえば、その辺の虫を焼いて食べたほうがいいと言うくらいだ。
しかし、そんなセリムを尻目に、アイリスは歌うように料理メニューを呟いていった。
「んー、焼きナスのスープ。ナスのアンチョビチーズ。後は……」
「ねぇ、アイリス……今までそんなの作ったことなかったよね……?」
今まで、セリムが嫌いだからと"なるべく"ナス料理は控えてくれていた。
ニッコリと微笑むアイリスは、肯定の意として言葉を返さなかった。
そして鼻歌混じりに料理を作り始めてしまうのだった。
アイリスの料理を食す上での無言のマナー。
残さず食べる。しっかり味わう。
そしてその日、セリムは涙目になりながら夕食を咀嚼するのだった。
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