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雲を抜け出した月が辺りを照らしている。
カルディナの地方には、景気がよいときに別荘を建て、没落して放置するという場合があった。
その別荘の一つ。
暴風雨に曝された外壁は色が剥がれ落ち、正門には閂(かんぬき)すらかかっていない。
「……」
黒いマントを羽織った男は、正門からその別荘に入った。
そして玄関に立つと、周囲を見回す。
埃の積もった地面を踏みしめながら、男は奥へと進んだ。
そして一番奥の部屋に入った男は、ふっと笑った。
「やはり、いたか」
窓までは10歩分しか無い小さな部屋に、テーブルが置かれていた。
小さな書斎の側には、5本の蝋燭が微かに灯っている。
そしてテーブルの前に座っていた男が立ち上がり、頭を下げた。
「お久しぶりです」
「頭を下げることはないだろう、リライト君」
男――リライトは頭を上げると、その鮮血色の瞳をマントの男に見せた。
真ん中で左右に分けられた髪は濃い青色だ。
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