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そこまで考えて、俺はいつも制服に着替える。そして、机の中から取り出すシルバーの腕時計。
父が死んで、それから一人で一生懸命俺を育ててくれた母からの、最後の誕生日プレゼント。今は父と同様に、決して会うことのできない場所へ逝ってしまった、母からのプレゼント。
高いものではないが、俺にとってはかけがえのない宝物だ。どんなに悪口を言われても、どんなに他人から無視されようと、この腕時計を見れば、耐えることが出来た。
そんな俺の拠り所ともいえる腕時計を身につけ、行きたくもない学校へと足を運ぶ。
これが俺の毎日。
「行ってきます」
一人暮らしをしている俺。もちろん部屋には誰もいない。それなのに、ついつい口から出てしまうこの言葉。
儚い言葉を殺風景な部屋に残し、俺は重い足取りで学校に向かう。
閑静な住宅街。静かに流れる汚れた川にかかる、小さな石造りの橋。ゆるい弧を描きながら学校へと続く長い長い坂道。
中学校に入学して、もう一年以上通い続けている通学路。今まで一度として心地よい気持ちで通ったことのないこの道を、俺は地面を見つめながら、トボトボと歩いて行く。
行きたくねぇな。あぁ行きたくない。
しかし、歩を一歩、また一歩と進めるたびに、否応なしに学校は近づいてくる
学校の前の坂道を登りきり、校門を通る。それからげた箱へと向かい、自分の上履きをカバンの中から取り出す。
学校に置いておくと、絶対になくなっちまうからな。
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