地獄のようなこの世の中で

9/16
前へ
/40ページ
次へ
「ここは……どこだ?」  気づくと俺は辺り一面真っ白な世界にいた。ただただひたすら地面が広がっているだけの白い世界。他には何もない。ただそれだけ。  本当にここはどこなんだ? 俺は死んだはずじゃないのか? もしかしてここがあの世? 「はじめまして。桜井智久君」  いくら考えても出ない答えを、どうにか導きだそうと思考をめぐらしていると、どこからともなく女性の声がした  ん? どこにだ?   辺りをキョロキョロ見渡すが、人のような物はみられない。ふと地面に眼をむけると、丸い影が一つ、ゆらゆらと映っていた。 「こっちだこっち」  俺はまさかと思い、声のする方向に視線を向けた。  マジかよ。  視線の先、頭を少し上に向けた空中に、彼女は立っていた。いや、浮いていた。  頭から生えた二本のねじれた真紅の角。黒いスーツを身にまとい、腰まである長いストレートの綺麗な黒髪が、ゆらゆらと中を泳いでいる。不思議と恐怖はなかった。 「あ、あの~~どちら様ですか?」  俺のその問に、彼女は切れ長の目で俺を見つめ言った。 「私は閻魔だ」
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加