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うつむいたついでに目を閉じると、彼と過ごした日々が走馬灯のように流れてくる。
彼の骨張った手、いつもつけていた香水の香。
私の名前を呼ぶ優しい声、垂れ目の下にあるナキボクロ。
私は多分彼のことを、全部と言っても過言で無いほど覚えていた。
…こんなに鮮明に覚えてるなんて、私あいつのこと本当に好きだったみたい。
大切なものほど無くしてから気づくって、本当なんだな。
こんなんでちゃんと忘れられるのかな?
おでこを付け冷たいテーブルの感覚に浸っていると、急に右頬にやけに冷たい感触がした。
「冷たっ!」
思わず叫んで顔をあげると、そこにはさっきの店員がグラス片手に立っていた。
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