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白い一面にかすかに見える緑が春の訪れを微妙に感じる季節。
日高の牧場はこの時期戦争だ。
毎晩が新しい命との闘いでいつ来るか分からない者を待つのである。
鷹木はこの夜も一頭の栗毛牝馬の前で苦虫噛むような顔していた。
『ホーリーアイ』
その馬が立つ馬房の横にあるプレートに刻まれている。
「また今日も生まれないのか。」
鷹木は出産予定から3日過ぎても生まれる兆候が見られないホーリーアイに苛立ちと不安を覚え、時間が過ぎるのをただ眺めるのである。
このホーリーアイ。鷹木牧場の期待の繁殖。と言ってもうちにいる2頭の内の一頭である。
血統は代々うちの牧場で培われた血統で、しかも父は、名種牡馬のノーザンテースト。
親父が10年前に借金して無理を承知で産まれた馬で、重賞も2勝して4年前に引退して、我が家に戻ってきたのである。 ところが、種付けても子馬が生まれない。現役時代の無理が祟ったのかどうか分からないが、死産と流産の繰り返しで5年目の今年こそという強い思いが鷹木の苛立ちを増幅させる。
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