同じ迷路に這わされているのは不愉快

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―いつも見る夢があった。 でも、目が覚めた途端、その実感は幻であったかのようにぼんやりと霧に包まれる。 夢に《実感》と表するのも変なのだけれど、確かに自分が其処にいた、という妙なリアリティがあった。 だが、今日はその、いつもと少し違った。 覚醒した後も、寝台にあるハズはない緑の気配を感じた。どこまでも続く、広大な土地特有の濃い、蒸す様に薫る草木の匂いが鼻を突く。 こんな空気を感じたのは、幾年ぶりかな。 遠い日に、家族で旅行に出掛けた。兄に付いて、ひたすら駆け回った。何が在るわけでもなく、ただ愉しくて笑みが溢れた。 兄は、付かず離れずの僕を待つことも、置いていくコトもない。ただ、一定の距離を保って、微かに微笑んでいるだけなのだ。 ― ―― ――― ―――― …ン リン… リン 記憶の中に鈴の音のみが響き渡る。他の雑響は掻き消されて、その澄んだ金属音だけが、ただ響く。
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