プロローグ

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主旋律を奏でるフルートの、まるで秋の銀杏並木の中で、舞い散る枯葉を後ろ手を組んで見上げつつ、闊歩するような旋律。 それに合わせて、ヴァイオリン、オーボエを始めとする管弦楽が後を追うように副旋律を奏で、それらはあたかも初めからそれが本来の姿だったかのように、溶け合い、混じり、お互いを出張しあいつつ、お互いを損なわせず、1つの「芸術」として己を固持している。 まさしく「雅」。そうとしか例えられない旋律の集合体が、春の昼下がりの日差しに溶け合って、それはよくできた演劇かなにかのようだった。 この眼前に広がる蒼穹が「変化し続ける自然の芸術」ならば、これはさしずめ「記録された不変の人工の芸術」だろうか。 そして数分、フルートのソロパートに入った頃、仰向けに寝転がり、腕を枕にして芸術に浸っていた俺は、身を起こした。 まず目についたのは錆びついた金網。そしてリノリウムが塗装された床だ。振り返れば給水塔が乗った塔屋。その鈍色の扉は堅く閉ざされている。なんの変哲のない学校の屋上である。 そして塔屋の隅、若干陰になった部分に「それ」はあった。
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