当たり前だった日常

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学校に登校するのは久しぶりだ。 一ヶ月以上も学校を休むのは初めてのことではないだろうか。 普通ならばあり得ない。 けれど、実波には特別な理由があった。 頭の片隅で思い出すことさえ吐き気がする。 世間を騒がせた忌々しい事件。 一家三人殺害事件。 生き残ったのはその家の娘、ただ一人だけであった。 その一家とは実波の家族──八塚(やつか)家。 実波は目の前で家族を奪われ喪った。 無力な自分。 目の前で失われた命。 人間とは何て儚いものなのだろうか。 当たり前にあった幸せな日々が、壊された瞬間だった。 「あっ、実波ちゃん……」 教室に実波が入ると一斉にクラスメイトの視線が集まる。 戸惑いと同情の声。 変わったのは自分なのか、それとも周りの人達なのか。 今となっては、どちらでも同じだ。 実波を取り巻く環境は変わってしまったという事実しかない。 そして、実波に向けられた視線は好奇の眼差しや哀れみの眼差しばかりだった。 「……おはよう」 返ってこないであろうと思いながら、それでもやっとの思いで口を開けば自分の席に向かう。 自分の席に座り机に突っ伏しても尚、視線は消えない。 それは学校でも、世の中でもだ。 今まで仲が良かった友達でさえ声を掛けてくれることはなく、実波は現実を思い知らされた。
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