当たり前だった日常

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「どうして……私ばかり……」 自分が不幸などと嘆きたくはなかった。 それでも、たった一瞬で何もかもを奪われた実波にとっては無理な話だ。 どんなに考えを変えたとしても、自分にはこれから不幸しか待っていないのではないだろうか。 後ろ指を差されて生きていかなくてはならないのか。 そう実波は心のどこかで決めつけてしまっていた。 いっそあの時、自分も一緒に──。 「ねえ、君が八塚実波さん?」 「え?」 いきなり呼ばれた自分の名。 聞き間違えではないだろう。 いきなりのことに実波は驚きながら目を見開けば、勢い良く机から顔を上げる。 そこに立っていたのは一人の男子だった。 「……」 「な、何か用ですか?」 じっと黙ってこちらを見ている男子に、実波は恐る恐る問い掛ける。 学年を示すバッジを見れば実波と同じ二年生のものをつけていた。 つまり目の前の男子は同級生ということだ。 しかし、見覚えのない男子だった。 名前はおろか存在さえも知らない男子を前にして実波は困惑する。 自分を見つめている男子は顔立ちが良い。 女子に騒がれていても不思議ではないのに、残念ながらまったく記憶にはなかった。 実際、他の女子たちから先程とは違うざわめきが起きているというのに。 もしかしたら事件のことを面白がって聞きに来たのかもしれない。 それでも、なぜか実波は男子に対して不快感を覚えない。 先程から自分に向けられていた周りの視線とは違い真っ直ぐとした瞳を目の前の男子が持っているからなのだろうか。 何より誰かに似ている気がした。 遠い日の記憶に残る面影──。 「あの?」 「実波、逢いたかったよ」 「え……!」 いきなり優しい笑顔を向けられたかと思えば、実波は頭を撫でられていた。 思ってもいなかった男子の行動に訳が分からず実波は固まってしまう。 しかし、嫌だとは感じない自分が不思議でならない。 この優しい体温を昔に感じたことがあるような気がしたのだ。  
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