当たり前だった日常

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「誰……っ」 「俺だよ、太一。桐嶋(きりしま) 太一(たいち)。覚えてない?」 「桐嶋──え、もしかして……近所に住んでた太一、くん?」 実波は確認するように呟く。 その言葉に太一は優しく笑うと頷いた。 桐嶋太一という名には聞き覚えがあった。 小さい頃に仲良くしていた男の子の名前と同じだ。 近くに住んでいた二人はとても仲が良かったが、小学四年生の頃に太一は親の仕事の都合で引っ越して行き、それ以来会うことはなかった。 「戻ってきたの?」 「うん、実波が休んでる間に転校してきたんだ。同じクラスに実波がいるって知った時は驚いた」 昔と変わらない太一の笑顔。 優しくて温かい気持ちにしてくれる。 変わっていないことを嬉しく思う反面、どこか自分は汚れてしまったようで悲しくなった。 わずかな表情の変化に太一は気づいたのだろうか。 いきなり実波の腕を掴むと、そのまま立ち上がらせ引くようにして歩き出す。 「え? どこに行くの?」 「良いからついて来て」 いまだに頭は混乱していて状況を飲み込めない。 しかし、今さら足を止めることもできず、真剣な声色で言う太一にただ引かれるままについて行くことしかできなかった。
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