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「ねえ……」
「嘘っ、怖くない……?」
そろそろ休み時間も終わるかという時。
ザワッと周りがどよめいたかと思えば、その後は教室中が静まり返った。
この嫌な感じを実波は知っている。
異物を排除したいとでも言うような空気感。
それに吐き気さえ込み上げて来そうだ。
教室の様子に太一は顔を上げると眉を顰め、顔を青くした実波に気づいたのか頭を優しく撫でる。
大丈夫だと言い聞かせるように触れてくれる手はいつだって温かい。
どうしたって自分は弱いままだ。
実波はゆっくり息を吐き出すと顔を上げた。
大丈夫、自分はもう独りではない。
何が起きたのか確認しようと目を向けると、皆の視線が集まっている先には逢坂智夜が立っていた。
教室に現れた智夜に太一は勿論、実波も驚いてしまう。
不良と恐れられている智夜が現れたことに、教室の中にいる人の殆どがどこか怯えているようだった。
その様子を太一は不思議そうに見やる。
「同じクラスなんだろう? 驚きすぎじゃない?」
「あまり教室に来たことなかったからかな」
「そういえば、そんなこと言ってたっけ」
つい先日のことを思い出した太一は納得したように呟いた。
離れていった太一の手を寂しく思いながらも、落ち着きを取り戻した実波は机の中から教科書を取り出し次の授業の準備を始める。
驚きはしたがクラスメイトが登校して来たことを怯える必要などない。
実波は周りの反応に溜め息を落とした。
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