踏み出した一歩

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頬杖をついた太一は自分の席に座る智夜を目で追った。 太一と実波は窓際の列で隣同士だ。 最近席替えがあり、たまたま隣になれたと太一は喜んでいたが実波は裏があるのではないかと失礼ながらも思っていた。 しかし、実波にとっても太一が隣なのは喜ばしいことで、何だかんだとこの距離を楽しんでいる。 智夜の席は太一の後ろで、同じ列の最後尾にあった。 その隣の席である崎本双葉は完全に顔を強張らせ俯いている。 あまり性格を知らない太一から見ても大人しい双葉は、今の席を誰かに押しつけられたのではないかと思ってしまう。 難しい顔をしている太一を横目に、実波は振り返ると智夜に声を掛けた。 「来る気になったんだね」 「別に、お前に言われて来たんじゃねーからな」 「それよりも、あまり凶悪そうな顔してると双葉ちゃんが怖がるから止めてよ」 「はあ?」 「えっと、私は……」 実波の言葉に双葉は驚いたように慌てて顔を上げたが、何かを言おうとして口ごもる。 その姿に悲しむでもなく実波は微笑んだが、双葉の方は泣きそうな顔をしていた。 本当は話したいことが色々あるのだろう。 それでも口に出来ないのは勇気がないからなのか。 よく分からない二人の様子に顔を逸らすと、智夜は窓の外に視線を向けた。 智夜は眉間に皺を寄せていたが、怒っているようには見えない。 「実波、紹介してよ」 双葉と実波の様子を気にしながらも、同じように太一も後ろを振り返ると智夜に笑い掛ける。 話が移り変わったことに安堵したのか、双葉はやはり口を閉ざしたまま顔を下に向けた。 その表情が思い詰めているように見えたのは思い違いだろうか。 一方、智夜は爽やかな印象の太一を前にして誰からも好かれそうだと思う反面、その笑顔が貼り付けられたような胡散臭いものに見えていた。 こうして作り上げれば相手がどう思うか分かっているように感じられ、考え過ぎだとは思いながらも睨み付けてしまう。 「テメー、誰だ」 「名前を知りたいなら自分から名乗るのがマナーだろう?」 「あ?」 「え、太一くん?」 笑顔を崩さない太一に、ガンを飛ばす智夜。 普段と様子が違う太一に実波は戸惑いを隠せない。 水と油とでも言えばいいのか。 混ぜてはいけないものを目の前にしてしまった気分になる。
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