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何故かは分からないが、二人のちぐはぐな雰囲気に実波は困った顔をする。
それに気づいた太一は「大丈夫」と言い実波に笑い掛けた。
先ほど自分に向けられた笑みとは違う。
やはり、胡散臭い男だと思い智夜は舌打ちをした。
「……逢坂智夜」
「俺は桐嶋太一、よろしく」
「……桐嶋なんて聞いたことねーな」
「太一くんは転校して来たんだよ」
智夜の疑問に答えたのは実波だった。
興味を持たないと思っていたが、笑顔を絶やさない太一を睨み続ける智夜はまったく興味がない訳でもないのだろう。
嫌な意味での興味かもしれないが。
その時、タイミング良くチャイムが鳴る。
慌てて実波が前に向き直るのを横目に、太一は智夜に何とも言えない冷たい視線を投げると自分も前を向いた。
授業のために教室へ入って来た教諭もまた智夜を見て驚く。
智夜は深く溜め息をつき小さく舌打ちをした。
それに気づいた実波は悲しそうに目を伏せる。
大人だからと言って誰もが味方になってくれる訳ではない。
それは仕方のないことだ。
人間である証拠だろう。
けれど、人から異端の目で見られる辛さを実波は知っていた。
智夜とは少し違った目だったが、それでもあまり良いものではない。
「きっと、アイツなら大丈夫だよ」
不意に小さな声が耳に届く。
驚き顔を向けると太一は普段と変わらない笑顔を向けていた。
太一も智夜を怖がってはいないのだろう。
そんなことが嬉しいなんて可笑しな話だ。
決して自分のことではないのに、周りから違うと押しつけられている智夜のことが気掛かりだった。
自分と重ねているのか。
だから、太一には否定されたくなかったのかもしれない。
二人の様子を智夜は後ろから、何とも言えない表情で見つめていた。
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