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意外なことに智夜は最後の授業が終了するまで教室からいなくなることはなかった。
そのことに実波は少しだけ驚いてしまう。
どの教科担任も智夜が大人しく席についていることに驚き、その存在をどう扱うべきか悩んでいるような気配があったのだから嫌になっても可笑しくはない。
けれど、決して智夜は不満を口にしたり逃げ出すようなことはしなかった。
真面目に授業を受けていたかは別として。
「不登校だと思ってたけど、よく頑張ったな」
「俺は不登校じゃねーよ!」
「教室に来てなかったんだから同じようなものだろう?」
「……っ」
太一が笑顔で放った言葉に、智夜は不満気に言い返す。
しかし、意地悪な太一の物言いに思わず口ごもってしまった。
不登校だったつもりはないが、教室を避け逃げていたのは確かだ。
今さら普通の生徒のようになりたいと思っても、受け入れられるか自信はない。
それでも自分に真っ直ぐ向けられた言葉を聞き、このままではいけないと智夜は一歩を踏み出した。
もう一度、誰かを信じたかったのか。
自分でも確かなことは分からない。
「二人とも仲良くなれそうだね」
「なりたくもねーよ」
「無理して仲良くする必要はないから」
実波は二人の様子に笑ってしまう。
それぞれ嫌そうな顔をしている姿は何だか似ていて面白い。
似た者同士と言えば誰も同意はしてくれそうにないが、実波は二人の雰囲気は似ていると思った。
傍から見れば二人は正反対だろう。
器用な太一と不器用な智夜。
しかし、どちらも温かく優しいところに違いはない。
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