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「私と一緒に……帰ってくれませんか?」
緊張して敬語になってしまったのだろう。
視線を落とした双葉は自信なさげに実波へ問い掛けた。
隣に不良と騒がれている智夜が居ては恐怖と混ざり緊張しても仕方ないと、失礼なことを太一は心の中で思う。
それに実波と双葉がまともに話すのはあの日の朝以来かもしれない。
「……私と帰ってくれるの?」
いきなりのことに実波の頭は混乱しそうになる。
もう自分と関わりを持ってはくれないと思っていた。
ただのクラスメイトとして必要最低限のやり取りしか出来ないのだろうと。
あの日、自分は彼女を傷つけた。
相手の言葉を聞かず、勝手に決めつけ逃げたのだ。
少なくとも実波はそう思っていた。
答えを出すことが怖くなり、思わず実波は双葉に問い返してしまう。
今なら聞き間違いでも傷ついたりはしない。
そうやって必死に自分へ言い聞かせる。
しかし、双葉は意を決したように実波と目を合わせると確かに頷いてくれた。
「崎本さん、実波をよろしくね」
「は、はい!」
お互いにどうして良いか分からないのか固まっている様子に、太一は優しく声を掛ける。
いまだに緊張は解けないのか、双葉は敬語のまま太一に頭を下げた。
智夜は興味がなさそうに背を向けると歩き出す。
それに合わせ太一も後を追う為にカバンを手にして教室を出て行った。
いつの間にか、他に誰もいなくなった教室に二人で残された実波はどう接したらいいのか必死に考えてしまう。
間違えたくはない。もう傷つけたくもない。
自分といることで謂れのない中傷を双葉が受けることは避けたかった。
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