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「実波ちゃん、ごめんね……」
「え?」
「私……実波ちゃんを助けてあげられなかった……実波ちゃんは、どんくさくてクラスに馴染めなかった私に声を掛けてくれて、友達にまでなってくれたのに……それなのに」
泣きそうな顔をしながら言葉を紡ぐ双葉に胸が痛くなる。
双葉が謝る必要などないと実波は首を横に振った。
凄惨な事件に巻き込まれた人間と、どう接したら良いのかなんて分かるわけもないのだ。
高校生なら尚更、一気に変わってしまった友達の境遇を思いやり支えることは難しいだろう。
自分が逆の立場でも変わらずいられるのかと聞かれれば、実波には自信がない。
太一が特殊な例であり、双葉が間違った行いをしていた訳ではないはずだ。
「私の方こそごめんね。双葉ちゃんにひどいこと言ったりして……」
「そんなこと……っ。酷いのは私なの。実波ちゃんだけが助かったって知った時……生きていてくれて良かったって思った」
「……っ」
「そんなの酷いよね。一人残されて辛い思いしてるのに……でも、それでも……実波ちゃんには生きていて欲しかった」
とうとう双葉の瞳から涙が溢れ出す。
実波は双葉の本音に触れ動揺した。
自分の生を望まれることが、こんなにも嬉しく残酷なことだと知りたくなかった。
双葉も太一も、生きることを望んでくれている。
それなのに捨ててしまいたいと思った自分は顔向けできない。
「実波ちゃんは……私の大切な友達だったから」
「……双葉ちゃん」
「だから、もう一度……私と友達になってくれませんか?」
何が正しい選択か答えは見つからない。
傷つけたくないのに、背負わせたくないのに。
こんな最低な自分が手を取ってはいけないと思うのに。
それでも泣きながら笑った双葉の手を取り、抱き締めたことは間違いではないと思った。
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