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………母さん
竜矢は途方にくれたように白い廊下に立ち竦む。
治療中の赤いランプはまだ点灯したままだ。
普段、あまり口もきかない。ずっとそうだった。
母親は自分とあまり接しようとしない。たまに接すれば、母親は震えながらヒステリックに叫ぶ。
殴られたことも数え切れない。
だけど、竜矢は母親が憎いというよりは何故か可哀想で仕方なくなる。
それは多分、母親の自分を傷つけるときの顔のせいだ。
あんなに自分が苦しいと痛いと望んでないと戒めながら他人を傷つける人を今まで竜矢は見たことがない。
母親は時折自分をみてる。鏡の端に映ったその顔は本当に優しい。だけど、うれしくて振り向いても母親はいない。
顔を強ばらせて逃げてしまう。
わからない。母さんがわからない。
自分がボロボロに疲れるように母親も疲れるのか。
何度目かの自殺を図った。
だからこそ、今、竜矢は病院の廊下に佇んでいる。
アルコールの瓶と散らばった錠剤
普段、舐めることさえできないのに
竜矢の目から涙が溢れ出してくる。
母親をいい加減解放してあげたくなる。きっと、自分のせいなのだ。
母親はオレを捨てようとはしなかった。
絶望に死を選びはしても
……ふと、零時の顔が浮かんだ。あのあったかい笑顔。大きな存在感。
今、側にいて笑って欲しいと思った。
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