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桜並木の天井。
本当に綺麗だったから、ついそればかりを見て歩いていた。
こんなとこ、犬と散歩したら楽しいだろうなあ。
……無理だけど……
父親はいない。捨てられた母親と一緒に生きてきた。
愛された記憶がない
昔、自分が拾ってこっそり餌を上げていた子犬は、ある日、母親がどこかへ捨ててしまった。
泣いても泣いても、母親は自分を見ようともしなかった。
……何、思い出したんだろ。
軽く頭を振って、竜矢は顔を上げた。
向こうの一面の桜の中で、やたらと映える男が立っていた。自分と同じ制服なら…新入生?
それにしちゃあ、背がすごく大きいしなんかおっかないけど。
なんだか、見られてるような気がして竜矢は真っ直ぐに見つめ返した。
だけど…すぐに逸らしたくなった。
何でかな……。
胸がざわつく。
怖い気もする。
だけど、……なんか………
苦手なんだ。多分。近づかないほうがいいって事なんだ。
竜矢はそう思いついて、さっさと目を伏せて歩いた。
こっちを見るあの目が、しばらく忘れられそうになくても。
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