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「あの、マスター・・・お話の途中でごめんなさい」
気がつけば彼女が申し訳なさそうに私の近くまで来ていた。
・・・ヤバい、やっぱりかわいい。なんか彼女から甘い香りがしてくる気がする・・・・ってわーわーわー!!何考えてるんだ私!
「ん、どうしたんだい?」
「あの、このカップは何処に持っていけばいいんでしょう?」
と、いいつつ小首をかしげる彼女。
素かッ!?素なのかッ!?その仕草は素なんですかッ!?むしろ狙ってやってくれてるほうが清々しいんだけど!!
「あぁ、それはそこにおいといて、後からするから。それより今日はもうあがってくれていいよ」
ん?彼女がバイト始めた時間わかんないからなんともいけないけど、なんでこんな中途半端な時間に帰すんだろう・・・。
「あ、はい。わかりました。それじゃあお先に失礼します」
「はい、お疲れ様。明日もよろしくね」
「はい」
ニコッとほほ笑んで店の奥に引っ込んでいった。
そしてマスターはおもむろに彼女が置いて行ったカップと私の飲んでいるコーヒーをさげる。
「ちょっとマスター、私まだ飲んでるって」
「なに言ってるんだい。沙月ちゃんを誘ってどこか遊びにでもいってきなさい」
・・・そういうことですか。
「ほら、早く行った行った。コーヒー代はツケといてあげるから」
グッ!と親指を立てて見せるマスター。
ツケなんだ、ていうかツケなんだ。私の残ったコーヒー勝手に下げといてツケなんだ。おごりじゃないんだ。
しょうがないので席から立って出口に向かう。
「またおいで」
満面の笑みで私を見送るマスター。
覚えてなさいよ、絶対コーヒー代踏み倒してやるんだから。
大きな不平不満アンド不安と、豆粒ほどの期待と、ささやかな楽しみを胸に、私はAstraを後にした。
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