一つの裏切り

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一つの裏切り

あたしが携帯を耳にあてて少し不機嫌に 「はい」 と言ったのにも関わらず、電話の相手は何も話さない。 間違い電話かもしれない。 あたしはすっかり目が覚めてしまった事を残念に思いながら携帯を耳に当てたまま、ベランダに出た。 あたしの部屋のベランダには小さな椅子がある。 ベランダで煙草を吸う時間が大切なあたしの為に、シンが作ってくれた椅子。 ホームセンターで買ってきた板をつなぎ合わせて、真っ赤なペンキを塗っただけの椅子だけど、体の小さなあたしが座るにはとても具合が良かった。 あたしがその椅子に腰をおろしてライターを探し始めた時、受話器から小さな声が聞こえた。
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