祝福の国

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あと、20歩程の所まで敵が迫って来ている。 彼等は、ここより北の地域で生息している雪熊の毛皮を身に纏っていた。 そのせいで、先程アルシオンの瞳には目が光っている様に見えたのだろう。 この毛皮は寒さから身を守る事は勿論の事、敵の斬撃をある程度防いでくれる。 全身を毛皮で覆っている為、遠くから見ると、本物の熊の様に見えてしまう。 そんな彼等は、ここロランの国から遥か北に、小さな集落を築いて暮らしている。 普段の生活は、海で海豹や鯨漁をして、森で雪熊や雪狼を狩って食料とする。 彼等なりの言葉はあるようだが、今までにその言葉を理解した者はいない。 そして、ロランの国では現在、この北の蛮族が問題となっていた。 彼等は一つの国を持たない為に、今のところは脅威ではないが、冬になると気候が温暖なロランの国へと、ローラン山脈を越えて来る。 大抵は少人数で、一小隊が出向けば解決するが、問題は彼等の人らしからぬ行動にあった。 他人から全てを奪う事しか頭にない彼等は、度々包囲網を抜けて、辺境の村や集落を荒らし回る。 それが、彼等が蛮族と呼ばれる所以だ。 今、アルシオン達に向かって行く彼等もまた、彼女達から奪う事しか考えていない。 仲間が目の前で死んでいったにも関わらず、全く悲しむ様子も怯む様子も感じられない。 もう、10歩程の場所まで、敵対する者達は近付いていた。
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