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きみのなみだ
温かい液体を一口含み飲み込むと、息が余計に白く宙に舞い、消える。
「……あったけぇ」
私の横でそう呟いた敦の肩は、きっと震えているんだろう。直視できない。視界に入る敦は小さなボトルを両手で握り締めて、荒くなる息を殺す。私のすぐとなりで、必死に。静かに静かに、泣いている。
夜空を見上げると、月明かりに照らされて浮かぶ雲が流れ、雲の間に覗く星たちが、キラキラと瞬いた。
流れ星に願いをかけたら、私の願いも叶うのだろうか。
そんなことを考えて、馬鹿らしいと、少し笑った。
ボトルからの熱は掌に吸収されて、小さなカイロの役目を果たし終える頃、敦は長く息を吐いた。
「隣にいてくれるって言ったんだ。でもやっぱ、人の気持ちって変わるんだよな」
落ち着きを取り戻したのか声の震えはなくて。空を見上げる横顔がそこにあった。
変わらない気持ちなんてない。好きも嫌いも、時間や環境が変われば自ずと変わってくるんだ。
私たちはまだ子ども。口約束だらけの恋。それでも私たちは私たちなりに、必死になって恋をする。大人からしたら馬鹿馬鹿しいような悩みを抱えて、一生懸命、恋してる。
友達から恋人にだって変われる。先輩後輩だってわからないじゃない。学生っていう限られた時間。近い将来、私たちは大人になる。
変わらないものなんてない。そんなのわかってる。わかってるけど。
「……変わらないのもあるよ」
それでも私は、信じたいんだ。
「ねぇよそんなの。変わっちゃぁんだよ」
「そんなことない!!」
ぶつかった視線。私に向ける敦の潤んだ目に、鋭さが宿った。
否定できることじゃないのはわかってる。それでも、変わらないオモイだってある。今、淳があの子を想っている真っ直ぐな気持ちだって。
淳だけじゃない。私だって、変わらずに。
「じゃあなんだったら変わんねぇの? 愛してる? ずっと一緒? 口先だけだろうよ!! なんで付き合ってんのに他の男を好きになんだよ!! おかしいだろ!!」
静かな空気が、震えた。
ゆっくり、けれどしっかりと私の腕に、淳は手をかける。
「教えてくれよ、なぁ。変わらねぇのがあるんだろ。ふざけんな。心変わりって……なんなんだよ」
敦の指が、ブルゾンを通して二の腕に食い込む。痛みに歪んだろう私の顔を、敦は懇願するような目で見ていた。怒り、悲しみ、そして、苦しそうな。
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