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真夜中の港。
私は真っ白なウエディングドレスを着たままテトラポットの上に立っていた。
なびく潮風がやけに気持ちいい。
真っ黒な海の向こう側には多色の宝石達が輝いていて、私はそれに見惚れる。
あのどれか一つにきっとあの人が――
「やっぱりここにいたのか」
タキシード姿の男がおぼつかない足元で近付いて来た。
片足の裾が濡れていて藻のようなものが付いている。
「村上さん……」
彼――村上雄二(ムラカミ ユウジ)は私を歌手デビューさせてくれたマネージャーさん。
そして――今は旦那さんでもある。
「なんで急に飛び出したりしたんだい?」
そうだ、私は結婚式の途中に飛び出したんだった。
「……やっぱり……みんな怒ってた?」
村上さんは溜め息を吐き、遠い目で夜空を見上げた。
「もう来ないでくれってさ」
「そう……」
私はやっと自分の過ちに気付いたがもうすでに遅かったようだ。
波が急に荒くなる。
「うちへ帰ろう」
彼が私に優しく手を差し延べた。
私は「そうね……」と言って彼の手を握る。
冷たい手だったけど、なぜか太陽のように暖かかった。
その温もりに私の心は溶かされ、次第に過ちを後悔し始める。
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