シンデレラ

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「何よこの本!!」 私は読んでいた本――『シンデレラ 伊豆 フォーエバー』を部屋の窓から投げ捨てた。 伊豆と書いてあるから買ったものの舞台はメキシコだった。 そうなると村上さんは海外で活躍する敏腕プロデューサーということになる。そんなことはどうでもいい。 まったく無駄な物を読んでしまった。 ラブコメの意味を履き違えている。 いや、それ以前の問題だ。 クソみたいな文書きやがって…… とにかくこの『詠乙』とかいう阿呆な作者が書く作品は今後一切全て読まないわ―― そう心に深く誓っていたら目覚まし時計のベルが鳴り響いた。 「えっ!? もう六時じゃん!」 驚きのあまり時計を手に取った。 本を読み始めたのが昨夜の零時だから、徹夜で――六時間かけて読んでいたことになる。 私は急にダルくなった。 休みたい。けど休めない。 仕方なく元気を付ける為、冷蔵庫から牛乳を取り出してパックのまま直でぐびぐび飲んだ。 「くぅ――やっぱ朝はコレね」 芸能人でもないが密かにCMのオファーを待ってることは言うまでもない。 とある東京の新地――そこそこのマンションに私の部屋がある。 何がそこそこかというと豪華さと華やかさだ。 セキュリティーはちゃんとしてあるし、騒音もそんなにはない。 しかし、この安っぽい白の壁紙ではエレガントな暮らしは無理なのだ。 食って寝れるだけまっし――私はそう自分に言い聞かせている。 現実は厳しいのだ。 窓から入ってくる眩しい朝日に急かされながら、今日も飽きることなく歯を磨く。 顔を洗った後、鏡に映る姿を見て、老けたな……と思うのはいつからか日常のこととなった。 「はぁ……」 溜め息を吐きながらメイクを済まし、髪を整え、スーツに着替える。 「今日もいっちょ働きますか!」 そんな可愛い独り言を言える自分が好きだ。 もちろん同じことを他人から聞けば私はひいてしまうだろう。
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