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──夢を見た。それは昔の、幼馴染みとの夢。
今ではもう懐かしい。自分はもうヒーローではないけれど、ヒーローだった時間はしっかり覚えている。
人を助けて感謝されることに喜びを覚えていたあの頃。
その時を思い出して少し心地いい気分で、彼は机の上で自らの腕を枕にしてうつ伏せていた顔を逆側に向けた。
そこから見えたものは春の陽光が斜めに傾き、美しく輝く外の木々。
開いた窓からこの図書室を吹き抜ける優しい風。
彼が突っ伏す木製の机の柔らかな匂い。その全てが彼の心を安らぎに誘った。
「……じーんくん、起きて」
その上にどこからか聞こえる可愛らしい鈴の音のような女の子の声でモーニングコール。これは起きたくても天上の誘惑がそれを許してくれない。
「……全く、刃君ったら……。早く起きて。起きてくれないと、私……私、あなたに」
さらにその声の主は艶っぽく彼の名を呼んで顔を寄せる。それはいっそキスでも出来そうなくらいに側まで寄っていき、彼の耳元で甘く小さく呟く。
「……ジャーマンスープレックス、しちゃうぞ♪」
「殺気ッ!」
すぐさま覚醒。飛び起きて緊急退避、声の主から急いで距離をとる。
「……全く、やっと起きたわね」
安全が確認できる位置まで逃げてから振り向くと、その声の主は腕を組んで呆れ顔で彼を睨み付けていた。
その彼女を、彼はよく知っている。
「……なんだ、やっぱり光かよ」
「なんだとは何よ。せっかく起こしてあげたってのに」
起こすにしたってもうちょっと方法はなかったのかと突っ込みたいが、時間の無駄だとわかっていたのでやめておく。
「というか、ここ図書室なんだから少しは静かにしなさいよ。と言っても、もう私たち以外はいないけどね」
「いきなり体罰受けそうになって静かにしろって方が無理だろ」
それもそうかも?と言って彼女──大門寺光は軽く笑って見せた。
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