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全くツイていない。
確かに俺は見た。
線路に人が立っていたのだ。
慌てて急ブレーキをかけたが間に合わず、俺は絶望した。
解雇、裁判、謹慎、訴訟――
縁起の悪い言葉ばかりが頭の中を駆け巡る。冗談じゃない。死にたいなら一人でひっそり死ねばいいのだ。第一、よりによってなんで俺なんだ。
混乱しながらも無線を手に取り、本部へと連絡をとる。
「こちら日比谷線、三号車です……現在日比谷駅、銀座駅間にて緊急停車。線路に人が……急ブレーキをかけましたが、間に合わず――」
無線が応える。
「三号車、了解した。すぐに警察に連絡する。現状を維持、指示を待て」
軽いノイズ音を立てて、通信ランプが消えた。
――軽い。
こっちは人生がかかっているんだぞ。
無線の向こうの、名も知らぬ相手の冷静な声に苛立ちを覚え、目の前の操縦装置に拳を打ち付けた。
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