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間違いない。
目の前には、黒いスーツに身を包んだ若い男。そしてあの、虚ろな眼差し。
「あ……お前……は……」
舌がもつれ、上手く言葉が出てこない。気付かぬ内に、口の中は酷く渇いていた。
「取引を、しませんか?」
相変わらず無感情な眼差しを俺に向けたまま、男はそんな言葉を発した。
取引?お前に何ができると言うんだ。この死に損ないが。
「私は、あなたの望みを一つだけ、なんでも叶えて差し上げられます」
なんだ……?
この男……今……?
いや、まさか。
・・・・・
「それから…私は死ねません」
全てを悟ったかのような迷いのない話し方。深く、希望のかけらも感じられない瞳の色。
俺は深く息を吸い、言った。
「お前は……誰だ?」
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