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男はすぐには答えなかった。
少し遠くを――窓の外の闇を――見やってから、抑揚のない声で言った。
「私は、“私”です。それ以上でも、以下でもない」
「……意味が分からない」
「知る必要はありません。私はもうすぐ消えます」
話が噛み合っているのかいないのか。男の言っていることは常識ではまるで理解出来ないことばかりだった。
「取引……と言ったな?なんでも願いを叶えられると?」
「ええ。一つだけ」
……面白い。頭のいかれた死に損ないに何が出来るのか見せて貰おうじゃないか。
「なら……時間を戻せ。今日の朝にだ」
言ってから、男の反応を待つ。さあ、どうする?
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