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崩れる身体から落ちた石に少年は正気を取り戻す。と、同時に深い喪失感と罪悪感に堪えれなくなった。どうして己は気付かなかったのか、と。
周囲に誰がいるなど考えもせず、少年は泣き叫んだ。徐々に冷たくなる親友の身体を必死に抱き寄せ、温もりを分け与えようと擦る。それでも既に器でしかない肉体は冷えていくだけで。
何度も何度も謝る少年は、せめてと肉体を担ぎかつての地まで歩を進める。隠れ里のような存在だった村から故郷は少々の距離があったが、まだ戦は終わってはいなかったが。少年は向かった。
ぼろぼろになりながらも着いた村は以前と程遠い姿。それでも、大切な地に変わりはなく。
小高い丘に――いつも三人で遊んだ丘に、冷えきった身体を埋めた。後から来るだろう少女に、彼の石を遺して。
『ともだちになった、あかしだよ!』
『カインだけ、とくべつな!』
彼のために彫った文字は、彼の血で読めなくなっている。戦に身を置きかつての友に殺された彼は、何を考えていたのだろうか。
己は、なんてことをしてしまったのか。
少女が一度訪れた荒れ果てた村で聞いた話。少年を殺そうとした兵士を殺し、殺されそうになった少年が守った少年を殺し。知り合いだったのか、泣き叫ぶ少年は既に肉塊となった身体を背負って消えた、という老人の言葉。
小高い丘の、真新しい掘り返した跡。やや膨らんだ土の上の石と枯れた花。
少女は、確信していた。もう二人が、この世にいないだろうことを。
「私はここにこれを記す。私の大切な友人達に向けて――……か」
最後の頁には肉筆だろう英文とサインがあった。一番下に、ごめんなさいと小さく薄く書かれているのに、もしかしたらという思いが浮かび上がる。
サッと立ち上がり本を片手に、受付横の機械に触れる。
作者検索に「死者に祈りを」の著者の名前を打ち込み、検索ボタンにカーソルを当てる。
どくりどくりと弾む心臓を宥めるように小さく息を吐き、クリックした。
「………!!!」
予想通り、と言って良いのか。否、予想の斜め上から切り返されたのだから自分の考えが浅かったのだろう、と己の目を疑いながら考えた。
表示されたのは「該当者 0」という無機質な言葉。
トップに戻り機械から離れながらもう一度本を見る。と、ほんの少しだけ頁が貼り付いている部分があった。
先の場所へ戻り、頁を丁寧に剥がす。
どうしようもない悲しみと困惑を抱いて。
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