序章 偶然か否か

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  ――私は、恐いのです。 真実は本当に、本当に美しさの欠片もありません。私は恐いのです。 私の大切な友の、私の大切な人の、全てが隠されてしまうのが、どうしようもなく恐ろしいのです。 きっと。そう、きっとでしかないけれど。 真実であったならば、これは誰の目にも映ることはないでしょう。そんなことになるのは、避けなければなりません。 でも、 それでも。 事実を、真実を変えてしまうなんて、私は―― 薄汚れた、普通の本にしては荒い作り方。どうして、気付かなかったんだろう。 インクが何かに滲んで、続きはわからない。所々に癖のある字で書かれている英文は、多分こんな意味になると思う。 「……もし、これを全部本当の言葉だと信じたら、」 インクの滲んだ紙は、その他の頁と材質が異なっている。本文の印刷された紙は黄変している。表紙は赤い布で覆われている最近の本よりやや頑丈そうな物。タイトルは黒字で書かれているものの、大分読みにくくなっている。 考えなくても、この本がとても古いだろう事はわかった。そしてそれは、 「話は、…本当にあったこと…?」 そう思わせるだけの、雰囲気を持っていた。癖のある著者の字は、著者がこれを書いていた当時手が震えていたからかも―― 「何が?」 「っ…ーーー!!!?」 バッと飛び上がる。叫ばなかっただけマシだろうけど、兎に角半端なく弾む心臓も、数秒止まった呼吸も、俺がものすっごく驚いたのを顕著に……ってんなこたどうでもいい!!! 「久遠っ!てめ、いきなり出てくんなこの野郎!!このっ!」 いつの間にやら俺の後ろにいたらしい男を振り返りながら、驚いたのを誤魔化すように声を抑えて叫ぶ。集中していたからと、あそこまで反応しては恥ずかしいだけだ。 「やあ、見た目は不良くん。また図書館に来てるんだね、さっすが!」 くすくすと笑いながら応える久遠こと櫛灘 久遠(くしなだ くおん)に誤魔化せていない事を悟り、顔に血が集まる。酷く居たたまれなくなって、顔を反らしながら話題を変えようと口を開く。 「………な、なんで、」 「僕が此処に来てるのか?」 「……………」 当たってたからって、黙らないでよと再び笑う久遠に、ぐうの音も出ない。ただ小さくぽつり、うるせぇと呟くことしか出来なかった。  
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