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どこから見ていたんだ、とか。お前は何を知っているのか、どうしてもういないのか、だとか。ぐるぐる思考がぶれる、揺れる。心臓に何かをつっかえたような、気持ちの悪い感触が取れない不快感。冷たい背中を何かが掠めて悪寒が駆け抜ける。
実際はただの冷や汗が流れただけだったのに、兎に角動転していた俺はそんなことにもビビって、一人椅子の上で呆然としていたのだった。
頭の中の情報を、整理してみる。
一、俺は一人で本を読み、検索した。
二、椅子に座ってから久遠に声を掛けられた。
三、久遠を追い返した。
四、耳元で久遠の声が聞こえて、振り返れば奴はいなかった。
五、久遠の言葉は何かを示唆しているようだった。
よくよく考えてみれば、四以外に動揺する理由はないんじゃないか、と自分に呆れを感じてしまう結果になったように思う。
久遠が以前にこの本を読んでいない、という確証は無いし、俺がしたことをあいつがしないとも限らない。
検索して結果に出なくとも、俺より先に読んでたなら理由を考える時間もあったろう。
四に関しても、耳元で聞こえたように感じただけだろう。
「…はは、バッカみてぇ」
やや緊張していた肩から力を抜いて、息を吐く。なんとも情けない。
勝手に勘違いして、勝手に怖がるなんて。男としてどうなんだろうか。
どうにも気が削げてきて、いつもなら決して本棚に戻さない未読の本を指定の位置に戻す。先程まで変に悩んでいた“図書館にない”はずの本も適当に戻した。
――検索で出ないなら、誰かが勝手に置いていったのかもしれないな。
図書館に備え付けの機械は管理している分の本の名前や位置の情報しか出ない。時折あるらしい盗難と比べたら、図書館に置き捨てるのは幾分かマシであろう。
妙に疲れた頭で適当に割り切って結論付けた。
そろそろ帰ろうか。早めに帰って冷やしておいて、姉にキンキンに冷えたアイスを渡すのも悪くない。
大好きな場所なのに居心地が悪く感じて、さっと身を翻す。殆ど人がいない。
「……もう、こんな時間か」
ちらりと見上げた時計が刻むのは午後四時二十三分というなんとも微妙な時間だが、もう二冊読んでいたら外も薄暗くなっていただろう。
夏休みのこの時間に図書館に来るのは勉強熱心な奴か、本の虫か。
本棚と本棚の間を通り抜ける時、小さな影が目に映った。
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