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「ありがとうございましたー」
やる気のない声が、涼しい空気と共に俺の背に掛かる。茹だるような熱気が開いたばかりの硝子戸の向こうから広がり、意識せずとも眉間に皺が出来た。
あちぃ、とつい漏れ出る言葉も意味はない。言うなれば条件反射のようなそれに、応える者はいないのだし。
「ぅーあー…。……なんか俺、茹で上がりそう」
そうは言っても、此処に居るだけでは目的は果たされない。絡み付くような熱気が、今自分の持つ安っぽいビニール袋に忍び寄るのは頂けないことなのは確かだ。
なかなか動こうとしない足を、閉まろうとするドアと迷惑そうな店員の視線が後押しし、俺はゆっくりと炎天下へ舞い戻った。
「あんっ…たってばーー!!!!」
それが何故、今耳元で怒鳴られる(正座はオプション)という状況に陥ってるのだろうか。目の前の鬼畜、基我が姉上様から目線を逸らしながら、状況把握という名目の現実逃避をしていると、再びガミガミとお叱りの声を受けた。
「……何が悪いってんだよ。俺はちゃんと、」
おまえの言う通りの物を買ってきて(所謂パシリを)やったっていうのに。その声は呑み込まざるを得なかった。それを簡単に上回る声量で遮られれば、しょうがないといえばしょうがないのだが。
「私はね!すくなーいお小遣いをやるから、冷たくて冷たくて美味しいアイス様を買ってきてって言ったのよ!?」
こんなドロドローに溶けたのなんてっ。金切り声に近い耳障りな高音に、計らずも俺の眉はつり上がる。
「こーんな暑い中を買いに行ってやったってーのに!大体、溶けんのぐらいわかんだろ?!無茶言うな!!」
「何言ってんのよ!私はちゃんと冷たくて冷たくて美味しいアイスって言って、あんたもそれで納得したでしょう!?その上で引き受けたんなら、これはあんたの落ち度でしょうがっ」
その言葉に、反論は出来ない。実際、俺はその条件で頷き、あまりの暑さに人通りの少なくなった道を行き、コンビニへと赴いたのだから。
ただ、今月はどうしてもお金が必要だったから。
「全くもう…反省してんだったら、早くもう一回行ってこい。勿論、台無しになった分のお金は引かせてもらうからね」
ヒートアップしていた口喧嘩も、自分が負けて終わる。どうにもあんたは考えなしなところがあるわよね、なんて姉に苦笑されて。プイと顔を背け部屋を出ようとした自分に、無情な姉の一言。
「ご・は・ん、は?」
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