序章 偶然か否か

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そんなことも想定して、母は考えていたのだろうか。母の使用していた部屋を掃除した際に、簡単なレシピが多数書き込まれたノートを発見した。 要点だけを纏められたそれだが、流石長年主婦をやっていただけある。自分達でもできそうな、しかし栄養配分の考えられたメニューだった。 『私もあんたも、そこまで料理下手じゃないでしょ?なら取り敢えず当番制でよくない?』 その意見にも簡単に同意し、それからは学業の合間に料理を考える時間が増えた。 それはそこまで不自由なわけでも、苦になるわけでもなく、むしろ少しの楽しみがあった。 自分で何かを作ることが、意外に楽しかったのだ。チラシと睨み合い、このスーパーに行こうかとか、此処のは嘘ばっかりだなとか、新鮮だったからかもしれない。 二年が経った今でもそれは俺の楽しみの一つなのだから、ただ自分にあっていただけかもしれないが。 朝は兎に角、昼と夜は曜日毎に担当を決める。これが、既に日常として定着していた。 「ねぇ、まだなのー?」 キッチンと食卓とはちょっとした空間の境があるけれど、それは声を遮ることもなく。ダルそうな、どこか不服の篭った姉のそれに苦笑が漏れた。 「あと少しだ。ちょっと適当になっちまったから、塩コショウは自分でやってくれ」 「あら、素敵なセルフサービスね?なら七味とバジルもお願いできる?」 「はいはい、」 適当に冷蔵庫から取り出した鶏肉と冷凍しておいた煮汁、溶き卵で混ぜ合わせた即席の親子丼はほかほかと湯気を出している。 香香を申し訳程度に添えた自分の丼を片手に、調味料を二つ三つ取った。両手が埋まってしまったけれど、特に障害物はないから問題ない。 「うん、流石私の弟。なかなか手際がよくなってきたわね」 食卓に置き、掛けられた言葉に一度焦がしたから品を変えたとも言えずに、ただ苦笑してキッチンへ戻り姉の丼も取り出す。保温にしておいた炊飯器からは、白い湯気がふわりと流れ出す。 やっぱり玉葱を飴色になるまで炒めたら、どんなものよりも美味しくなるよな。 なんて、全く関係の無いことを考えながら、中身の詰まった丼を姉へ差し出す。 「いただきます」 席につき、いつの間にか並べられていたお茶を一口。両手を合わせて、声を揃えて言った。 いや、本当玉葱は偉大だ。  
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